幾何光学における基礎理論体系
本ページでは、幾何光学の基礎理論を、導出の説明を省略して全体像として整理している。導出の詳細は別ページで紹介するか、法則名のみ示す形とした。
本ページでは、以下の規則を前提として議論を進める。
規則A: 符号規約
寸法表記における終端記号の扱いは以下のとおりとする。
1.片側がドット、反対側が矢印の終端記号
付録「1次元ベクトルと角度における方向と符号の定義」に従い、方向性をもつ量として扱う。
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上下方向:上向きを正
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左右方向:右向きを正
-
回転方向:反時計回りを正
2.両側が矢印の終端記号
方向性を持たない正のスカラー量として扱う。
・光線の反射と屈折
以下に示す反射の法則・スネルの法則は、光が境界面でどのように進路を変えるかを決定する基本原理であり、光学設計のあらゆる判断を支える最も根本的な法則である。反射・屈折という現象を数学的に記述するこの法則こそ、レンズ設計から光学シミュレーションに至るまで、すべての計算の起点となる。
この法則は光の電磁気学的性質に基づいており、その導出は EM1-(4)-⑦, EM1-(5)-⑦ で示している。
・反射の法則
媒質境界面で光線が反射するとき、境界面の法線に対する入射角を θ、反射角を φ と定義する。

図1-1
光線が境界で折り返す際の角度関係は、以下に示す反射の法則によって記述される。この法則は、反射現象を支配する基本的な幾何学的原理である。

・スネルの法則(屈折の法則)
屈折率 n₁ の媒質から屈折率 n₂ の媒質へ光が進むとき、光線は境界面で進路を変える。境界面の法線に対する入射角を θ₁、屈折角を θ₂ とすると、両者の関係は媒質の屈折率によって一意に決まる。

図1-2
光が曲がるという現象は、この角度と屈折率の対応によって次の式で記述される。この関係式は、光が境界面でどのように進路を変えるかを規定する基本原理であり、スネルの法則として知られている。

・光学系の近軸理論体系① ~焦点距離とその性質~
本章では、規則Bを前提として構成される理論体系について論じる。
規則B: 近軸領域の定義
光線が光軸に対して十分小さな角度で進むと仮定し、
tanθ≃θ, sinθ≃θ, cosθ≃1
と近似する。この近軸条件により、光線の扱いは大幅に簡略化され、光学系の基本構造を理解するための強力な枠組みが得られる。
平行光を光学系に入射させたとき、出射光が光軸上の点 F′ に収束する系について考える。 このとき、入射光線と出射光線を光学系側へ延長したときの交点を光軸に垂直に投影した点を 後側主点 H′ と定義する。
近軸領域では、光学系による屈折はすべて H′ を含む光軸直交面(後側主面)で起こる とみなすことができる。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図2-1a
このとき、H'F'ベクトルを後側焦点距離という(これをf'で表す)。

同様に、前側焦点 F から発せられる光線を光学系に入射させたとき、出射光が平行光となる系について考える。 このとき、入射光線と出射光線を光学系側へ延長したときの交点を光軸に垂直に投影した点を 前側主点 H と定義する。近軸領域では、光学系による屈折はすべて H を含む光軸直交面(前側主面)で起こる とみなすことができる。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図2-1b
このとき、FHベクトルを前側焦点距離という(これをfで表す)。

これらをまとめて図示すると以下のようになる。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図2-2
ここで、図中の各ベクトルは以下を表す。
FF: フロントフォーカス
HD: 前側主点距離
HH': 主点間距離
HD': 後側主点距離
BF: バックフォーカス
また、前側主点において光軸となす角度 ω で入射した光線は、後側主点から同じ角度 ω で出射する。この関係は常に成立し、後述する焦点距離の性質とも密接に結びついている。
なお、各ベクトル間の関係は以下の式で表される。

さらに、前側焦点距離と後側焦点距離の関係は以下で表される(導出は (IG)-(1)-⑥a を参照)。

ここで、物体側媒質の屈折率を仮に 1 とすると、後側焦 点距は 𝑓′=𝑛′𝑓 と書けるため、あたかも後側焦点距離 𝑓′ が像側媒質の屈折率 𝑛′ に比例して決まるような印象を受けがちである。しかし実際には、物体側屈折率 𝑛 または像側屈折率 𝑛′ のどちらか一方が変化しただけでも、前側焦点離 𝑓 と後側焦点距離 𝑓′ の両方が変化する。その変化量は光学系の設計に依存しており、一般式として一意に表すことはできない。さらに、FF、HD、HH'、HD'、BF といった光学系の主要パラメータも同様であり、物体側屈率 𝑛 または像側屈折率 𝑛′ のどちらか一方が変化しただけでも、光学系の構成に応じて値が変化してしまう。
ここから、焦点距離が表す具体的な性質について示す。
光軸に対する角度 ω で光学系に入射した平行光は、光学系を通過した後、後側焦点位置 F' において、光軸から y' だけシフトした位置に結像する。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図2-3a
このことから、三角関数より、以下の式が成り立つ。

同様に、前側焦点面上の光軸から y だけ離れた点から出た光線は、光学系を通過した後、光軸に対して角度 ω の平行光として出射される。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図2-3b
このことから、三角関数より、以下の式が成り立つ。

このように、光学系は焦点距離を介して、物側・像側の位置情報 𝑦,𝑦′ と、平行光に対応する角度情報 𝜔 を相互に対応づける役割を担っている。
次に、点Oから出射された光線が、光学系を通った後、点O'に結像する系について考える。この場合も、軸外物点からの光線のうち前側主点を通る光線は、前側主点での傾角を保持したまま後側主点を経由して、対応する像点へ結像する。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図2-4
この系について、光学系の倍率 β を以下のようにおく。

この時、前側焦点 F・後側焦点 F’に対する物点 O・像点 O’ の位置は以下のベクトルで表される。 ※導出は (IG)-(1)-⑥b,c を参照

よって、物像間距離は以下のように表される。

ここで、HH' は光学系の具体的な設計パラメータによって決まる量であり、焦点距離や倍率といった系の一次的な性能指標とは直接的な関連を持たない。
大半の場合、n=n'=1であることから、この場合は、物像間距離は以下の式( (IG)-(1)-⑪ )で表される。

更に、βについて解くと、以下の解が得られる。

※複合は正立像と倒立像のそれぞれを表す。
・光学系の近軸理論体系② ~瞳面とその役割~
ここでも近軸領域として扱い、規則Bを継続して適用する。
光学系には、通過する光線の角度範囲を制御するための絞りが設けられている。この絞りは光学系内部の特定位置に配置されているが、外部から観察すると、光学系による像形成の結果として “大きさ” と “位置” が変化した虚像として見える。
さらに、この絞りの虚像は、入射側から見た場合と出射側から見た場合で異なる位置・大きさを示す。
そこで、
-
入射側から見た絞りの虚像を入射瞳と言い、その位置を P、その見かけの絞り径を Dep
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出射側から見た絞りの虚像を射出瞳と言い、その位置を P'、その見かけの絞り径を Dxp
と定義する。

図3-1a

図3-1b
そこで、図2-3aについて、瞳面を含めて改めて図示すると、以下のようになる。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図3-2a
ここで、像側のFナンバーを以下のように定義する。

このFナンバーは光学系の明るさの指標となる量である。光学系を通過する光量は入射瞳の面積に比例するため、入射瞳径に対しては光量がその二乗に比例する。したがって、光学系を通る光量を I とし、後側焦点距離 f′ を一定とすると、光量とFナンバーの間には次の関係が成立する。

また、光学系を通過する光量を示す指標としては、Fナンバーのほかに、次式で定義される 開口数(NA) がある。

ここで、近軸領域では、集光角 θ′ は近似的に Fナンバーおよび開口数を用いてそれぞれ以下のように表すことができる。

よって、近軸近似として、以下の式が成り立つ。

同様に、図2-3bについて、瞳面を含めて改めて図示すると、以下 のようになる。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
