・結像関係の式の導出
物点からの光線が、焦点距離fの光学素子を介して、像点に結像する様子を図示すると、以下のようになる。
※寸法表記については、付録:1次元ベクトルと角度の方向と符号の定義について を参照
(i) f > 0, z < 0 の時、

(ii) f > 0, 0 < z < f の時、

(iii) f > 0, f < z の時、

(iv) f < 0, z < f の時

(v) f < 0, f < z < 0 の時、

(vi) f < 0, z > 0 の時、

倍率をβとすると、三角形の相似の関係より、(i)~(vi)の全て共通で、以下のことが言える。

次に、以下について考える。

図より、以下のことが言える。

(1)-①'、(1)-②a、(1)-②bより、

ラグランジュの不変量より、

(1)-④、(1)-②abc、(1)-①' より、

(1)-①、(1)-⑤ より、

次に、縦倍率αを以下のように定義すると、(1)-①、(1)-①’、(1)-⑥より、

これは、zが微小量のときのみに成り立つ点には注意が必要である。
※媒質が空気の場合:
n=n'=1より、以下のことが言える。

(1)-①、(1)-①'、(1)-⑧より、以下のニュートンの式(またはニュートンの関係式)を含む関係式が得られる。

次に、(1)-③に(1)-⑧を適用することで、以下のガウスの結像式が得られる。

次に、物像間距離について示す。
物像間距離を、物点を始点、像点を終点とする1次元ベクトルで定義すると、以下のように表すことができる。

次に、縦倍率においては、(1)-⑦にn=n'=1を代入することで、以下の式が得られる。

・理想レンズによる幾何学的光線伝播の漸化式モデル
ニュートンの式を用い、理想レンズを順に配置して光線追跡を行う方法を考える。
まず、光線追跡で必要となる設定事項は以下の通りである。
第0面の設定値:
・物体高 :h0
・物体から出る光線の角度: θ0
・物体面から第1面の光学素子の前側主点までの距離:d0
第i面の設定値:
・光学素子の焦点距離: fi, (f’i)
・光学素子の主点間距離: HH’i
・後側主点から次面の前側主点までの距離: di
第0面と第1面について図示すると、以下のようになる。
※寸法表記については、付録:1次元ベクトルと角度の方向と符号の定義について を参照

但し、設定値を青字、漸化式から計算される値を黒字とした。
図に示されている条件を式で表すと、以下のようになる。

ここで、媒質を空気とし、(1)-⑧を適用する。
また、θ0、θ1を微小量とする。
このとき、(2)-①を整理すると、以下のようになる。

次に、第i面と第i+1面について以下に図示する。
※寸法表記については、付録:1次元ベクトルと角度の方向と符号の定義について を参照

但し、設定値を青字、漸化式から計算される値を黒字とした。
図に示されている条件を式で表すと、以下のようになる。

ここで、媒質を空気とし、(1)-⑧を適用する。
また、θi、θi+1を微小量とする。
このとき、(2)-③を整理すると以下のようになる。

よって、各面の設定事項の値を与え、(2)-②と(2)-④の計算を第0面から第n面(像面)まで順に行うことで、光線追跡をすることができる。
・光線の初期値の設定
次に、第0面の設定値 h0, θ0 の与え方について考える。
方法はいろいろ考えられるが、ここでは入射瞳位置と物体側開口数で与える。
物体高 y0、入射瞳までの距離 zp、物体側開口数 NAo(>0)を設定することで下図に示す5本の光線(ray1, ray2, …, ray5)を与えることができる。

ここで、hpは入射瞳半径である。角度φ(>0)を微小量とすると、NAoは以下のように表すことができる。

よって、ray1, ray2, …, ray5の各光線を表す、第0面の設定値h0, θ0はそれぞれ、以下のように求められる。

・光線の終値の計算
最後に、光学系・像面の各パラメータを自動計算で求める。
ray1(またはray2)について、第n-1面の光学素子を通った後、光線が中心軸と交わる位置を像面(第n面)になるようにdn-1を計算をする。
このとき、ray1について、第n-1面から第n面(像面)までの光線を図示すると、以下のようになる。

ray1について図に示されている条件を式で表すと、以下のようになる。

ここで、媒質を空気とし、(1)-⑧を適用すると、以下が得られる。

そして、像面位置におけるray3の光線高さhn(ray3)を用いて、以下を計算することで、光学系全体の倍率βを求めることができる。

更に、像側開口数NAiは 以下のように計算できる。

また、ray4については、第n-1面の光学素子を通った後、光線が中心軸と交わる位置は、射出瞳位置である。第n-1面の後側主点から射出瞳までの距離をdn-1(p)とし、また、像面から射出瞳までの距離をzp'とする。
このとき、ray4について、第n-1面から射出瞳面までの光線を図示すると、以下のようになる。

ray4について図に示されている条件を式で表すと、以下のようになる。

ここで、媒質を空気とし、(1)-⑧を適用すると、以下が得られる。

よって、射出瞳位置zp'は以下のように計算できる。

・光線追跡のフォーマット作成
ここまで示した漸化式を適用し、理想レンズを配置して光線追跡を行うフォーマットをエクセルで作成する事例について示す。
・入力部:
以下の黒い枠内に各設定値の値を入力する。第9面まであるが、全て入力する必要はなく、余った面については、焦点距離は無限大に相当する十分に大きな値、主点間距離と面間距離については値を零にしておけばよい。

・計算部:
ray1からray5まで、それぞれ別々に光線追跡の計算を行う。赤と青の枠内は入力値を参照している。

・光線追跡用データ部:
以下は、光線追跡の結果を図にするためのデータである。光軸方向の位置は、各面についてLとL+HH'で与えている。また、主点間の光線を描かないようにするため、行を空けてある。ray3,4,5においては、これらを光軸に対し反転させたray3*,4*,5*を新たに追加した。

・光線追跡結果表示部:
光線追跡の結果を図にすると以下のようになる。また、光学系・像面の各パラメータの計算結果も併せて表示させた。

以上のようにして、エクセルを用いることで、理想レンズを配置して光線追跡を行うことができる。このフォーマットを以下に掲載する。
