理想レンズ系における
ガウス結像式に基づく光線伝播…(IG)
このページでは、理想レンズ系の近軸光線伝搬をガウス結像式に基づいて体系的に扱い、行列形式を用いて光学系パラメータ(焦点距離・主点位置・バックフォーカスなど)を求める方法を示す。まず、物体距離・像距離・焦点距離の関係を与える結像式を導出し、その後、ガウス結像式に基づく理想レンズによる幾何学的光線伝播の行列表現を構成する。
※本ページでは幾何光学に基づく光線伝搬モデルを扱います。ガウシアンビーム等の波動光学的な回折の影響は含まれていません。
尚、本ページの説明の流れは、岸川利郎『ユーザーエンジニアのための光学入門』[1]を参考にしている。 ただし、導出や記述は筆者が独自に再構成したものである。
目次:
本ページでは、以下の規則を前提として議論を進める。
規則A: 寸法・角度表記
寸法・角度表記は 付録:本サイトにおける寸法・角度の定義 に従い、方向性を持つ片側矢印は上下方向では上向き、左右方向では右向き、回転では反時計回りを正(逆方向を負)とし、方向性を持たない両側矢印で示す量は常に正値として扱う。
規則B: 近軸領域の定義
本ページでは角度をラジアンで表し、三次以上の微小項を無視する一次近軸近似を用いる。 即ち、角度をθとしたとき、以下の近似を適用する:
sin θ ≃ θ, tan θ ≃ θ, cos θ ≃ 1
規則C: パラメータの表記(色分け)
各パラメータの色分けについては、(漸化式モデル中で)設定で与えられる量を青字、計算式で与えられる量を黒字とする。
・結像関係の式の導出
ここでは、焦点距離の定義に基づく図示から出発し、その概念 を用いて有限距離での結像関係を導く。
物点から出た光線が、焦点距離 f をもつ光学素子を通過して像点に結像する様子を、焦点距離の定義( (BS)-(2)-① )に基づいて図示すると、次のようになる。
※但し、規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
(i) f > 0, z < 0 の時、

図1-1a
(ii) f > 0, 0 < z < f の時、

図1-1b
(iii) f > 0, f < z の時、

図1-1c
(iv) f < 0, z < f の時

図1-1d
(v) f < 0, f < z < 0 の時、

図1-1e
(vi) f < 0, z > 0 の時、

図1-1f
図1-1について補足する。近軸光学では光線伝搬が線形であるため、物体点から出る光線はすべて 2 本の独立な光線の線形結合として表される。したがって、この 2 本が像側で交わる位置が定まれば、他の光線も必ず同じ点に到達し、像点が一意に決まる。ゆえに、2 本の光線の交点のみから物体面と像面の共役関係を定義することができ、物体面 O と像面 O' を与えることができるのである。
規則Aの符号規約においては、(i)~(vi)は全て同じモデルの一形態であり、倍率をβとすると、三角形の相似の関係より、(i)~(vi)の全て共通で以下のことが言える。

これを変形すると、以下が得られる。

ここで、主点の位置関係を直観的に理解するために、横倍率が等倍(β = 1)となる条件を考える。このとき物体距離と像距離は f = z、f' = −z' を満たす。この状態で光線図(図1-2)を描くと、前側主点は物体面と一致し、後側主点は像面と一致することが分かる。したがって、前側(後側)主点を通る光線は後側(前側)主点を通る光線として写り、β = 1 の条件の下では高さが保存されるため、主点間の対応は平行移動として理解できるのである。

図1-2
ここで、物体面における媒質の屈折率をn、像面における媒質の屈折率をn'とする。このとき、主面が光軸と交わる主点を通る光線を併せて描くと、ラグランジュの不変量( (PX)-(2)-③ )とy=y'より、入射角ωと射出角ω'の間には、以下の関係が成り立つ。

次に、以下の主要光線について考える。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)を適用
図1-3
図1-3より、以下のことが言える。

(1)-①'、(1)-③a、(1)-③bより、

ここで、uとu'についても(1)-②と同様に、ラグランジュの不変量( (PX)-(2)-③ )より、以下の関係が成り立つ。

(1)-⑤、(1)-③abc、(1)-①'abc より、

(1)-①、(1)-⑥ より、

尚、図1‑3からも主点への入射角ωと射出角ω'の関係を直接読み取ることができ、その結果は (1)-② と一致する。これは、図示による幾何学的導出とラグランジュ不変量による導出が互いに整合していることを示している。
次に、縦倍率αを以下のように定義すると、(1)-①、(1)-①’、(1)-⑦より、

これは、zが微小量のときのみに成り立つ点には注意が必要である。
※媒質が空気の場合:
n=n'=1より、以下のことが言える。

(1)-①'a,b,c, (1)-⑨aより、以下のニュートンの式(またはニュートンの関係式)を含む関係式が得られる。

次に、(1)-④に(1)-⑨aを適用することで、以下のガウスの結像式が得られる。

次に、物像間距離について示す。
物像間距離を、物点を始点、像点を終点とする1次元ベクトルで定義すると、以下のように表すことができる。

次に、縦倍率においては、(1)-⑧にn=n'=1を代入することで、以下の式が得られる。

・理想レンズによるガウス結像式に基づく光線伝播
1.光学素子による入射光と出射光の変換関係
第0面(物体面)、第1面、第2面、…、第 j 面、…、第 n 面(像面)まで順に光線が通る系を考える。このとき、第 j 面のパラメータを図示すると以下のようになる。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)、規則C(パラメータの色の区別)を適用
・光学素子の前側焦点から前側主点までの距離: fj
・光学素子の後側主点から後側焦点までの距離: fj'
・光学素子の前側主点から物側空中像までの距離: sj
・光学素子の後側主点から像側空中像までの距離: s'j
・光学素子位置での物側からの入射光線の高さ: hj
・光学素子位置での像側への出射光線の高さ: h'j
・物側の光線角度: uj
・像側の光線角度: u'j
媒質を空気とし、(1)-⑨を適用する。
ここで、図より、

(1)-⑪(ガウスの結像式)より、

(2)-①a,b,c、(2)-② より、

(2)-①a、(2)-②’を行列で表すと以下のようになる。

前側主点と後側主点の前後では光線の高さは変わらず、屈折によって角度のみが変化する。この屈折関係を表す行列を Sj で表し、界面行列と呼ぶ。
2.光学素子間における光線伝搬の理論的記述
次に、第 j 面と第 j+1 面の間の光線伝搬について示す。このときの各パラメータを図示すると以下のようになる。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)、規則C(パラメータの色の区別)を適用
・光学素子の主点間距離: HH’j
・光学素子の後側主点から次の光学素子の前側主点までの距離: dj
・原点位置(第1面物体面)から光学素子の前側主点までの距離: Lj
このとき、図より以下のことが言える。

(2)-④b,cを行列で表すと、以下のようになる。

第 j 面の後側主点を通過した光線は、次の j+1 面の前側主点へ到達するまで角度を保持したまま伝搬し、高さのみが変化する。この伝搬過程を表す行列をTjで表し、空間伝搬行列と呼ぶ。
3. 光線伝搬の行列表現
光線の伝搬を、光線の高さと角度を状態量として追跡し、行列形式で記述する。こうすることで光学系の挙動を統一的かつ簡潔に扱える。
界面行列( (2)-③ )と空間伝播行列( (2)-⑤ )の積を、以下のように置く。

これを適用すると、(2)-③、(2)-⑤は以下のように表される。

(2)-⑤'による漸化式を用いることで、第1面から最終面までの光線伝播を追跡することができる。
また、(2)-③a, (2)-⑤a, (2)-⑥a の逆行列はそれぞれ以下のようになる。

これを適用すると、逆向きの光線伝搬を以下のように表すことができる。

以上より、光線の正方向および逆方向の伝搬を、行列形式によって統一的に記述できることを示した。これらの表現を基礎として、次章では光学系全体の特性を評価する方法について述べる。
・理想レンズによる光線伝搬における光学系パラメータの導出
k 個の理想レンズから成る光学系について、下図に示す各光線の追跡結果を用いて光学系パラメータを求める。ここでも媒質は空気とし、f=f', ω=ω' ( (1)-⑨ ) として扱う。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)、規則C(パラメータの色の区別)を適用
近軸光学では、光線高さや角度は本来微小量として扱われる。しかし、近軸近似が線形かつ斉次であ るため、これらの量は計算上任意のスケールに正規化しても結果は変わらない。もちろん、これは実際の光線が近軸条件を外れてよいという意味ではなく、あくまで“計算の便宜上の規格化”である。
そこで、軸上近軸追跡では主点位置での光線高さを 1 に、主光線近軸追跡では物体高と主点が成す角度を –1 となるように規格化し、解析を簡潔かつ統一的に行えるようにする。
ここでは、各パラメータの添え字(以下の「*」の箇所)を変えることで、各光線を区別することとする。
-
(2)-③,⑤', (2)-③',⑤''より、


-
(2)-①a,b,c より、

尚、添え字を持たないパラメータは、光学系全体を特徴づける系固有のパラメータとする。
また、図中のレンズ全長 TL は、(2)-④a で定義される Lj を用いて、以下のように表すことができる。

(i) 前面からの平行光入射
ここでは、合成焦点距離 f 、後側主点距離 HD'、平行光入射における像距離 BFinf を求める。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)、規則C(パラメータの色の区別)を適用
(3)-①a,bより、

uF',1 = 0, hF',1 = 1 より、

(3)-②aより、以下の平行光入射における像距離が得られる。

よって、図から得られる関係式に、(3)-④a'と(3)-④bを適用することで、焦点距離 f と後側主点距離 HD' を得ることができる。


(ii) 後面からの平行光入射(逆向き)
ここでは、合成焦点距離 f 、前側主点距離 HD、平行光入射における物体距離 FFinf を求める。

※規則A(符号規約)、規則B(近軸領域の定義)、規則C(パ ラメータの色の区別)を適用
(3)-①a',b'より、

u'F,k = 0, h'F,k = -1 より、

(3)-②aより、以下の平行光入射における物体距離が得られる。

よって、図から得られる関係式に、(3)-⑤a'と(3)-⑤bを適用することで、焦点距離 f と前側主点距離 HD を得ることができる。

